政略結婚はせつない恋の予感⁉︎
「……ずいぶん呑んでるな」
海洋が顔を顰めた。
わたしはセルジオ・ロッシのブーティを脱ぐために屈もうとして、途端によろける。
海洋が、上からふわりと支えてくれた。
「あ…ごめん」
見上げたら、海洋の顔が目の前にあった。
彼が一つ息を吐き、わたしの足元にしゃがむ。
そして、ブーティのジッパーを下げ、片方ずつ脱がしてくれた。
「あ…ありがと」
抱えられるようにして、リビングへ向かう。
今のわたしは、千鳥足のお手本になる足取りだ。
リビングに入って、ダークブラウンの本革のソファに座らされた。
シワになるとイヤなので、アクアスキュータムのコートと、ブルックスブラザーズのワンピとセットのジャケットを脱ぐ。
海洋がアイランドキッチンの向こうにある冷蔵庫から、エビアンのボトルを持ってきてくれた。目の前でキャップを外してくれて、渡される。
「炭酸がよければサンペレグリノがあったぞ。
それとも、ペリエのレモンの方が口の中がさっぱりするか?」
わたしは首を振った。
「ありがと……エビアンでいい」
エビアンをごくごく…と呑んだ。
別に頭が痛いとか吐き気がするとかいうのはいっさいなく、ただ喉がすっごく乾いて、世界がぐるぐる回っていた。
海洋が隣に腰かけた。
ニューバランスのスウェットを着た彼はもうシャワーを浴びたらしく、濡れた髪が生乾きになっていた。
「海洋、ちゃんと髪を乾かさないと風邪ひいちゃうよ?」
海洋がソファの背もたれの上に肘を乗せ、頬杖をついてわたしを見た。
「……彩、なにがあった?」