政略結婚はせつない恋の予感⁉︎

「『彩乃、乗りな』ってカッコいい~!」

わたしは、ぱちぱちぱち…と手を叩いて讃えた。

「なに言ってんのよ。突然、LINEがきてびっくりしたじゃない。なんで、こんな時間にこんな場所でいるのよ?」

後部座席(リアシート)で、腕も脚も組んでいた誓子(ちかこ)さんが訊く。

……ケンちゃんの前では、あんなに「乙女」なのになぁ。

誓子さんのおうちは、わたしがいたマンションにほど近い、高額所得者が住む街として全国に名を轟かせる田園調布だった。

……おうちも車もわかりやすいなぁ。

「誓子さん、こんな深夜に突然、すいません。
あとでちゃんとお話しますから……あ、お車を出していただいて申し訳ありません」

運転手さんにもミラー越しに頭を下げる。

「いえいえ、いいんですよ。お嬢さまがホスト遊びに狂われたときで慣れておりますから」

「お…お黙りなさいっ、川上(かわかみ)っ!」

だけど、言われた運転手さんの川上さんは動じない。初老の彼はまるで誓子さんの「じいや」のようだ。

「誓子さん、もしかして、ケンちゃんとのことで?」

わたしがそう訊くと、

「……なによ、悪い?」

決まり悪そうに答えた。

……そんなにお見合い相手のケンちゃんのこと、気に入ってたんだ。

「ケンちゃんとは、誤解がとけましたか?」

わたしの問いに、誓子さんが急にいきり立った。

「うちの父が悪かったのよっ。
こっちから断ったくせに、わたしに彼を諦めさそうとして、向こうから断られたように装ったの!もう、パパとは今、絶交中よっ!!」

……やっぱり、ケンちゃんの言い分の方が正しかったんだ。

「……で、ケンちゃんとは進展しました?」

すると、今度は急にもじもじしだした。

「実は明日……映画でも観に行こう、って誘われてる」

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