政略結婚はせつない恋の予感⁉︎
着いた先は神保町の古書街を一本入った路地にある、カウンターだけの割烹料理屋だった。
なんでも、ミシュランで星をもらったお店で修行した人が独立して開いたお店らしい。
「いらっしゃい……あれ、島村さん、めずらしいっすねー。
……えらく綺麗な……彼女さんですか?」
店に入ると、三十代半ばくらいの店主から声がかかった。
「将吾さまの婚約者ですよ。私と一緒に専属の秘書をしている方です」
「えっ、富多さん、結婚するんですか?」
店主が目を丸くして、わたしを見る。
「……政略結婚ですけどね」
わたしはそう言って、にっこり笑った。
……本当のことだ。
「またまたぁ、ご冗談を……おもしろい彼女さんですね」
店主は島村さんを見て、ニヤッと笑った。
……本当のことなのに。
島村さんもさすがに、はっきりと苦笑している。
わたしたちはカウンターの奥に並んで座った。