政略結婚はせつない恋の予感⁉︎
「海洋さんがアメリカにいるから、どうしようもないって思ってんだったら、今はスカイプだってあるし……」
……そう。海洋は今、日本にはいない。
彼はW大学の理工学部を卒業して、彼の祖父が会長、父が頭取を務める、あさひJPN銀行に入行した。
その後、銀行からマサチューセッツ工科大学に留学して、現在は工科大学院で学んでいる。
よくわからないが、システム工学の研究をしているらしい。経済畑ばかりのうちの一族の中では、あいつは異色のバリバリな理系だ。
……わたしは、海洋とはもう八年近く会っていない。
「あんた、最後に会ったとき、小学生だったよね?よく覚えてるわね」
海洋だけじゃなく、彼の双子の兄の太陽や、それから慶人や大地も、会社からアメリカのビジネススクールに留学することになって、ひさびさに同世代が集まった「朝比奈一族の新年パーティ」が、その最後だった。
「『大人の事情』って案外、子どもは聞いてんだぜ。太陽さんと大地さんと慶人さんと蓉子ちゃんがさ、『彩乃と海洋はどうなってるんだ?まだ意地張ってるのか?海洋はこのままの状態でアメリカに行くのか?』ってヒソヒソ話してたんだよ」
裕太はふふんと得意げに披露した。
でも、そのあと声を落としてつぶやいた。
「……それにさ、おれのこと相手してくれたの『海洋にいちゃん』くらいだったんだよ。おれだけ、歳が離れてるからさ」
海洋はずっと通っていた剣道の道場で、子どもたちの面倒をみていたから、大人たちばかりの中で退屈していた裕太を気遣ってくれたんだろう。
「だからって、事情をちょっと聞きかじっただけの子どもが、余計なことに口出すんじゃないの」
わたしは弟を窘めた。
しかも、一番嫌いな「子ども」という言葉をわざと使って……