政略結婚はせつない恋の予感⁉︎
しかし、前と違っているのは、将吾さんも大橋さんも、わたしを見て目を見開いて驚いていることだ。
あのときの将吾さんの余裕な冷静さも、大橋さんの余裕な妖艶さも、まったく感じられなかった。
「……彩乃」
態勢を整えて、口火を切ったのは、将吾さんだった。
「着替えはおれの部屋に置いとけ、って言ったじゃないか」
……はぁ?
わたし、そんなこと言われてませんけど?
将吾さんはわたしからキャリーバッグを引き取った。そして、わたしが手にしていたプライベートルームのカードキーをひょいと奪って、今わたしが施錠したばかりの部屋をピッと解錠した。
それから、用済みになったカードキーをわたしに返して、今度はその手をわたしの腰に回した。
「……こういうわけだから、大橋、悪いけど君の気持ちには応えられない」
そう言って、わたしをプライベートルームの中に促した。
……なんで、また戻るの?
「政略結婚、ですよね!?」
大橋さんの声が後ろから飛んできた。挑むような声だ。
「わたしの方が朝比奈さんよりも副社長……将吾さんの近くにずっといます」
将吾さんとわたしは、顔だけ大橋さんに向けた。
……だからって、恋や愛が生まれるとは限らないよね?
わたしは大橋さんのおめでたい考えに逆に感心した。
「……政略結婚だったら、好きになっちゃいけない?」
将吾さんは大橋さんをまっすぐに見据えて言った。アーモンド型の瞳がぎらり、と光った。
そして……
「彩乃、せっかくメイクしてんのに、ごめんな」
回されていた腰がぐっ、と引き寄せられ、
……えっ?
と思った瞬間、将吾さんの顔が落ちてきた。
爽やかで、それでいてほんのり甘い、彼のフレグランスの香りとともに。