政略結婚はせつない恋の予感⁉︎
「将吾さま、昨夜はお戻りにならなかったので、心配してたんですよ?クリスマスまでに片付けるっておっしゃってたお仕事は終わりました?」
彼女が将吾さんを見上げて気遣う。
一五〇センチ台であろう小柄な彼女が、一八五センチはある彼にすっぽりと守られているように見える。将吾さんが彼女を見る目が、甘くやさしい。
「……わかば、お客さまがいらっしゃるんだぞ」
窘める声が飛んできた。
声の方を見ると、島村さんが立っていた。
モスグリーンのニットにチノパン姿は、会社で見るピシッとしたスリーピースとはまるで違うラフな格好だった。
わかば、と呼ばれている彼女の目がわたしに移り、目が見開かれる。
……そういえば、会社でプライベートルームから出た直後にも、将吾さんと大橋さんから同じような顔で見られたなぁ。
「彩乃、この人は島村……茂樹のお母さんでこのうちのハウスキーパーの静枝さんだ。
昔から住み込みで働いてもらっていて、この人がいないとうちは回らない。
そして、この子は茂樹の妹のわかばだ。今、管理栄養士になるための大学に通っている」
島村さんのお母さんが、わたしにお辞儀をした。わかばさんもぺこっ、と頭を下げる。
「初めまして。朝比奈 彩乃と申します。
会社ではいつも島村室長にたいへんお世話になっております」
わたしも彼らに向かってお辞儀をした。
「彩乃さま、この家では僕らは使用人ですから」
島村さんが困った顔をして言った。
お母さんもものすごく恐縮している。
「でも、わたしにとっては上司のご家族ですよ?
島村さんにお世話になってるのはお世辞でもなんでもなく、事実ですし」
そう言ってわたしがにっこり微笑むと、なぜか島村さんから目を逸らされた。
「……こいつが、おれの婚約者だ。これから、よろしく頼む」
将吾さんはわたしをぞんざいに紹介した。
そのとき……わかばさんの、ただでさえも大きな瞳が、ますます大きく見開かれた。
将吾さんを見てきらきら輝いていたはずの光が、一瞬のうちに、翳ってしまった。
……この子、将吾さんのことが好きなんだ。