政略結婚はせつない恋の予感⁉︎
「……シークフリード、帰ってたのなら早く入って来なさいよ。もうお腹ペコペコよっ」
一七五センチはあろうかという長身の「マダム」な美人が、リビングルームと思われる部屋の入り口で腕を組んで立っていた。
カフェ・オ・レ色の髪と瞳を持ち、将吾さんに激似なその人は、おそらく彼の母親だろう。
いや、お見合いのときに一度会っているはずなのだが、終始ぼんやりしていたので記憶はラララ星の彼方である。
……ということは、わたしの「お姑さん」になる人!?
背筋に冷たい汗が流れるような気がした。
「マイヤさん、その呼び名、やめろよ」
将吾さんの顔が苦虫を噛み潰したようになる。
「あら、どうして?あなたのスウェーデンでのファーストネームよ?シークフリード」
お見合いの釣書によると、彼は日本では一応日本国籍を選んでいることになってはいるが、スウェーデン国籍の離脱手続きは行っていないそうだ。
だから、スウェーデンでの正式な彼の名は、シークフリード・ショーゴ・グランホルム・トミタだという。
「せっかく、わが息子にドイツの叙事詩の英雄の名前を、スウェーデン風につけてあげたのに」
お義母さまは残念そうにつぶやいた。
「どこが英雄だよっ!あんなマヌケな理由でマヌケな殺され方したヤツの名前なんかつけんじゃねえよっ」
……へぇ…どんな話なんだろ?
おもしろそう。あとでググろっと。
「おい、彩乃、あとでググろうとか思ってんじゃねえだろうな?絶対にググるなよっ」
将吾さんからぎろり、と睨まれた。
……バレてる。
わたしは首を竦めた。
お義母さまがそんなわたしを見た。