『ツインクロス』番外編
(…何だろ、調子悪いな…)


夏樹は仕事をこなしながらも、何処か己の不調を感じていた。

少し熱っぽいのかも知れない。

(でも、これ位大丈夫…)

そう思っていた夏樹だったが、普段と違う夏樹の様子に気付いた直純が声を掛けてきて「今日はバイトを切り上げるように」との店長命令が下ってしまった。


直純先生は凄い人だ。

いつだって周りの人のことを良く見ていて、具合が悪いことにも一番に気付き、過保護な程に心配してくれる。

それでも素直に認めることが出来ない自分に対し『店長命令』という形で大事を取らせてくれる。そんな先生の優しさにはいつだって救われていた。


(…ホントは不調の原因なんて、分かってる…)
 

更衣室兼事務所から出てきた夏樹は、店内のある一角を見つめた。

見慣れた二校の制服を着た学生たち男女数名が話に花を咲かせて盛り上がっている。


(…雅耶…)


早乙女さんと仲良く笑い合っている、その後ろ姿。

そんな二人を、これ以上見ていたくなかった。

(そんなのが原因で仕事を続けられないとか、無責任にも程があるよな。こんなじゃ直純先生に帰れと言われても仕方ない…)

夏樹は苦し気に目を伏せた。

そして、直純と仁志に「お先に失礼します」と頭を下げながら手短に挨拶を済ませると、すぐに店を後にした。


夏樹がバイトを早く切り上げて店を出たことに、雅耶は気付くことはなかった。

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