『ツインクロス』番外編
肩を震わせて明らかに泣いていたのだが、すぐに夏樹はゴシゴシと手の甲で涙を拭うと。

「どう、したんですか?こんな所まで…。私、何か…忘れ物でもしましたか?」

まるで口調は至って普通に、何事もなかったかのように振る舞う。

だが、それでもこらえきれない涙がまた一筋頬を伝っていった。

「夏樹…」

「すっ…すみませんっ。ちょ…っと、…っ…私…」

顔を伏せて涙を必死に抑えようとする夏樹。

その小さく震える肩を見ていたら、たまらなく切なくなって直純は自らの拳を握りしめた。

そして…。


「…っ…?」


ふわりと…自らの腕の中へとその身を引き寄せると、そっと抱き締めた。

「せん…せ…?」

「お前は何もかも独りで我慢し過ぎだよ。泣きたい時は泣いていい。無理に押し込める必要なんてないんだ」

「……っ…」

緊張に身を固くしながらも震えてしまうその背を、まるで小さな子どもをあやすようにポンポンと優しく撫でる。

「お前がまだ『冬樹』でいた時から、俺はお前が夏樹だと気付いていた。それでもお前が、すごく一生懸命だったから敢えて気付かない振りをして見守ることに決めたんだ。でもな、夏樹。誰にも頼らないのが『強さ』じゃないんだよ。弱い部分は人間あって当たり前。それを認めることも大切だし、それこそが次の強さに繋がっていくんだよ」

「…先生…」

「お前の気持ちは分かっているつもりだよ。俺の胸じゃ役不足かもしれないが、こうしてお前を支えること位は出来る。たまには誰かに寄り掛かったって罰は当たらないんじゃないかな」

「…直純せんせ…っ…」


震えながら再び泣き出した夏樹を。

直純は愛し気に、その腕の中に優しく抱き締めるのだった。


そんな二人を月だけが静かに見下ろしていた。

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