『ツインクロス』番外編
「…それで?」

不意に見つめあっていた視線を和らげると、直純が聞き返した。

「お前は、どうしたいんだ?」

直純の表情は柔らかかったが、だが有無を言わせぬ、どこか雅耶の出方を見極めているかのようなそんな瞳をしていた。

「先生…」

「不満を持ったのか?『俺の夏樹に手を出すな』とでも?」

「………」

「それとも、ただ確かめたかっただけか?ただ確かめたかったというのなら、それは事実に違いないよ。抱き合っていた…というのは少し語弊があるが、泣いていた夏樹を慰めたのは事実だ」

「………」

雅耶は悔し気な表情を出さないように努めているようであったが、ギリ…と奥歯を噛みしめるのが見ていて分かった。

そんな雅耶を静かに見下ろしながら、直純は穏やかに続ける。

「あの日…。何で夏樹が泣いていたか、お前は知ってるか?何故あいつがこのところ体調を崩していたのかも?」

「夏樹が…体調を…?」

それさえも気づいていなかったのか、雅耶は驚きの表情を浮かべた。

そして次の瞬間には「なぜ…?」と呟くと、雅耶は視線を落として何か考えを巡らせているようだった。


実際、気付かないのは無理もないのかも知れない。

雅耶がこの店に訪れる時は数人のメンバーといつも一緒であったし、解散するにしても、いつだって雅耶の隣には薫が居た。夏樹と接する場面など見ている限り殆ど皆無だったのだ。

他で二人が連絡を取っていたかは自分には分からない。だが、少なくとも此処では夏樹も誰にも悟られないように必死だったし、気付くことは難しかったかも知れない。

だが、それではあまりに夏樹が不憫(ふびん)で。


薫が雅耶を気に入ってることは見ていればすぐに判る。

そんな薫に対し雅耶自身に他意はないにしても、彼女に良いように振り回されて夏樹を(ないがし)ろにしている状況は見ていて許せなかった。


『知らない』ということは、時に罪だ。

知ろうとしないことと同じなのである。


「分からないようじゃ、お前には夏樹を任せられない」

「……っ…!?」


その声に驚き、顔を上げた雅耶は思いのほか鋭い直純の視線に射られ、微動だにすることが出来なかった。


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