『ツインクロス』番外編
「何よあんたッ。気やすく触るんじゃないわよっ!離しなさいよっ!」

ぐいぐい腕を引こうとするが、びくともしない。

表情を変えない夏樹の瞳が、唯花を静かに見つめている。

「こ…のっ、馬鹿力っ!」

焦りだした唯花に、夏樹は静かに口を開いた。


「駄目だよ。唯花ちゃん…」

「なっ…?」

「そんなもの、使っちゃ駄目だ」


夏樹は掴んでいない方の手で、そっと唯花の持っているカミソリの刃を奪うと遠くへ放り投げた。

カシャーーン…という、音が室内に響き渡る。


「あんた…何で、私の名前…」


唯花は呆然とした。

自分は目の前のこの女に名前を名乗ってはいない筈だ。


それに、この声には聞き覚えがあった。

見た目の可憐な少女には若干似つかわしくない、その中性的な低めの透る声。

そして自分を静かに見つめる涼し気な、まっすぐな瞳。


それは、彼の大切な幼なじみだという少年のそれに似すぎていた。

前に自分が数人の男たちに絡まれた時、助けて貰った彼のものに。

あの時も、自分に対して振り上げられた男の腕を彼はこうして掴んで、静かに諭すような瞳をしていて…。


双子だから似ているのか…とも思ったが、違うと。

心のどこかで自分の勘がそう告げていた。


「あ…あなた…っ…」


動揺を隠しきれず、知らず震えてしまう声。

それを全て汲み取るように、目の前の人物は僅かに眉を下げた。


「ごめんね、唯花ちゃん…」

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