異世界征服
一体どうなっていることやら。
彼女の背中には、蝶のような形をした翅が生えた。

それはまるで妖精のよう。
ルビーか何か宝石のように輝くその翅は、彼女の茶髪に合うヘアピンと同じ深紅をしていた。

「見ててね」

とても小さな声、微かに聞こえた。
とても自信があるようで、しかし、何処か緊張感のある声音。
彼女の真剣な顔を見るのは初めてで、新鮮だった。

「ぁ……………」
言葉にならない。
まるで、空間自体が彼女の支配下にあるみたいで、なのにどうしてか、彼女が、舞っている。
あの翅を操り、化物の攻撃を踊るように避け、自分は光る攻撃をする。
綺麗だと思った。

中二病とか、そんなこと今は思いもしない。
彼女には事実、能力があるのだから。
SFだファンタジーだ、ああその通りだ。
それが現実。
これまで俺が信じなかった現実。

しかし一つどうしても気になる事があった。
それは、彼女が時折、何処か哀しげな表情をする事。
俺の中を、その顔が何度も回っていた。

彼女は、俺が次々圧倒されていく内に、いつの間にか青い化物を倒していた。
そして俺の元へ戻って来れば直ぐ様、カッコよかったでしょ?見惚れちゃった?何て言うもんだからつい、別に、と素っ気なく返事をした。
心にもないことだった。

事実カッコよかったし、間にさわるが見惚れてしまった。
今までそんな経験がなかったが故に、俺は色々混乱していた。

言葉になる訳がない、衝撃の事実を目の当たりにして、彼女にどう接するべきか判らなかった。
そして俺は、彼女については知ってはいけない事があるように思えた。
しかしそれは、あくまでも直感的な事だった。

「槙くん、順番可笑しくなっちゃったけど、紹介するね。ディフラント・イグジステンス、通称ディス。此処はそう呼ばれる、私の世界」

ディフラント、異。
イグジステンス、存在。
ディス、不。

多分俺は、一瞬にしてこの世界の世間価値を知った。

此処は、要らない、在ってはならない世界。
彼女は言った。
自分の世界がないことを望む者が沢山いるなら、人はどう思うのだろう。
彼女は今、どう思っているのだろう。
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