いつか、らせん階段で
ダイニングに行くには一度1階に降りてからダイニングに続く大きならせん階段を上らないといけないらしい。

絨毯が敷かれた広いらせん階段はおとぎ話に出てくるお城の中にあるもののようだった。
黒く細めの真鍮製の手すりの湾曲もかなり美しい。

「すてき」
思わず呟いてしまった。

ドレスコードのあるダイニングだったから、私も尚也も着替えをしていた。
私はワンピースにハイヒール。尚也は薄いピンクのカッターシャツに綿のパンツ、麻のジャケット。

あまり見たことがない素敵に決まっている尚也の姿にドキッとした。
やっぱりお金持ちの息子って話は本当だった。
リアル王子様参上。

お城でこんな素敵な王子様とのディナーなんて本当におとぎ話のようだ。

「お姫様、腕をどうぞ」
尚也はニコッと笑って腕を私に差し出した。
どうせなら楽しもう。
私はためらうことなく尚也と腕を組んだ。
そして、ゆっくりとらせん階段を上っていく。

もう二度とこんな経験をすることはないだろう。
瞼の奥が熱くなって涙がこみ上げてきそうだった。
泣いちゃダメ、そんな姿を尚也に見せちゃダメ。
尚也に気が付かれないように組んだ腕とは反対の手できゅっと太ももをつねって懸命にこらえた。

いたっ
・・・ちょっと強くやりすぎたかも。









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