いつか、らせん階段で
誰かの話し声で目を覚ました。
えーっと、ここどこだっけ。
いつもとは全く違うマットレスの柔らかさに戸惑った。
そうだ、尚也と高原のオーベルジュに来ているんだっけ。
あれから尚也と肌を重ねてそして眠ってしまっていたらしい。
でも、隣で寝ているはずの尚也がいない。
時刻はまだ23時。
ホントに少し寝ていただけみたい。
浴室の電気が付いていて中から話し声がする。どうやら尚也は浴室で電話中らしい。
自分が何も身に着けずに眠ってしまっていてひどく心細い。
おまけにいつも隣にいる人がいない。
ああ、でも、あと少しでこれが日常になる、でも、私の隣で眠る人は誰もいないんだ。
まあ、1人で裸では寝ることはないけれど。
「・・・まだ出会ったばかりだよ」
尚也の声が聞こえた。
え?誰と何の話をしているの?
「じゃあ、発つ前に籍を入れればいいの?」
籍を入れる?
「今すぐに結婚式なんて無理だから。・・・うん、それはそっちで決めていいよ。いいよ。ああ、式はアメリカでしてもいい」
は?
結婚式って言った?
出会ったばかりの彼女と籍を入れてからアメリカに行って、結婚式はアメリカでするって・・・。
そこまで話が進んでいたとは。
全身に鳥肌が立った。
結婚の話が出ているのに私を連れて旅行をして、私を抱いた?
これが結婚前の最後の遊びってこと?
尚也のことが一瞬にして信じられなくなった。
ああ、目の前が真っ暗になるってこういうことをいうんだな。
気持ちが悪い、吐きそうだ。
尚也はまだ何か話をしていたけれど、もう何も私の耳には入らなかった。
そのうちシャワーの音がし始めた。
しばらくはベッドに戻ってこないだろう。私は声を殺して泣いた。