いつか、らせん階段で
しばらくしてシャワーから戻った尚也はベッドに戻り寝たふりをしている私の頭や頬を撫でてからいつものように後ろ抱きにした。
そのまま寝たふりをしていると、尚也も寝息に変わった。
眠りが深くなるまでじっと我慢して動かないようにして、頃合いを見計らってベッドを抜け出した。
そっと浴室に向かってネコ足のバスタブにお湯を張った。
静かに身体を沈める。
バスオイルが置いてあったけれど使う気にもなれなかった。
ここに来なければよかったのかな。
でも、ここに来ても来なくても尚也は留学に行ってしまうし、尚也はお見合いはしていたんだし結婚だって決まっていたんだろう。
その事実は何も変わらない。
私が尚也の結婚の事実を知るのがいつかってことだけ。
来週に実家に帰るって言ってたな。その時に彼女と籍を入れるんだろうか。
実家から戻って数日で渡米するはずだけど。
あちらで結婚式を挙げて新婚生活ってことになるのかな。
そんな事知りたくなかった。
私は置いていかれるのではなくて棄てられるんだ。
ここで泣くのは嫌だった。声が漏れて尚也が起きてしまったら困る。浴槽に潜って息を止めた。