いつか、らせん階段で
3日間を京都で過ごした。
こんなにゆっくり1人で過ごすのは初めてだった。
神社仏閣巡りといういうよりは美術館巡りをしたり水族館にも行った。
意外と一人で過ごすことができることを知って、ホッとした。
心の中でずっと尚也のことがちらつき、尚也の乗る飛行機が離陸する時間には気持ち悪くなるほど苦しくなったり、吐きそうになったりもしたけど。
じっと一人で耐えた。
東京に戻ってきたのは最終の新幹線の少し前。
ドキドキしながら自分の部屋の郵便受けを開けた。
投げ込みチラシとDM、あとは何もなかった。
カギは?
郵便受けは鍵付きだから盗まれたわけではないだろう。尚也が置いていかなかったのだと思った。
部屋に戻ると、驚くことに尚也の私物がそのまま残されていた。
もちろんスーツケースはなくなっているから予定通りに旅立ったことはわかる。
部屋着や歯ブラシ、髪のセット剤、携帯音楽プレーヤーに読みかけの小説までそのままに出て行ったらしい。
明日にでもまた戻ってくるんじゃないかってくらいいつも通り。
何だこれ。
私に捨てておいてほしいものを置いていったことはわかる。
携帯プレーヤーはいつも使っていたのに必要じゃないの?
読みかけのミステリーのしおりはまだ前半の3割ほど。これは飛行機内で読まなくていいの?
私の部屋からなくなったものが1つだけあった。
浴室にあったシトラスの香りの使いかけのボディソープ。
尚也が持っていったのだ。
この部屋に尚也の存在を感じすぎて涙があふれて我慢できずに大泣きをした。
もう会えない。