いつか、らせん階段で
「じゃあ、それから尚也君と連絡を取り合っているの？」

「連絡はきますけど、返信はしてません」

そうなのだ。あれから毎日のようにメッセージがくるけれど、未読スルーしている。
だから、何の用事でメッセージを送ってきているのかもわからない。

このまま未読スルーをしていればいずれ連絡が来なくなると思っている。
ガマン比べのようなものだ。

このカフェ「リーフ」は尚也の渡米後に移転して営業していた。

「尚也はリーフがここに移転したことを知っちゃったんですね。はぁ、ここも来にくくなるな」

「夏葉ちゃん、そんな事言わないでよ。夏葉ちゃんだってなかなか顔を出してくれなくてさみしいのに」

「私も可南子さんと会えないのは辛いから、尚也が来そうもない時間帯を狙って来ますよ」
ふふっと笑った。

可南子さんは困った顔をして何か言おうとしたけれど、他のお客さんに呼ばれてそちらに行ってしまった。

「あ、夏葉さん、久しぶり」
代わりに店の奥から森本君が現れた。

「森本君、こんにちは。ね、聞いた。ここの正社員になったって？」

「そうなんです。俺が慣れたら、大貴さんと交代で夜の営業も任せてもらえそうなんです」

笑顔で本当に嬉しそうだ。

「修業の甲斐があったね。私、森本君の考えたランチメニューも好きよ。夜の部も頑張って」

森本君は少し前まで調理師の学校に行きながら、このカフェともう１軒ダイニングバーでバイトをしながら修業していた勉強熱心な２３才イケメン料理人男子。

夜のダイニングバーでお酒に関する知識を得ていたから、これからこのリーフの夜の営業を再開するのに強い戦力になるのだろう。

おまけにイケメンだから、森本君目当ての女性客も来るはず。これはオーナーの大貴さんの戦略なのかな。

一緒に正社員に登用される真緒ちゃんは製菓の専門学校に通ってパティシエを目指している可愛くて努力家の女の子だ。
この二人の加入でリーフはまた更に魅力的なお店になることだろう。
尚也に出会いたくないからここに来ることはあまりない・・・かもしれないのが残念だ。
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