いつか、らせん階段で
「真緒ちゃん、お会計お願いします」
私は立ち上がった。

「尚也、外に出て話しましょう。ここじゃお店の迷惑になるから」
尚也が頷くのをチラッと見てレジに向かった。

先に店の外に出た尚也の背中を見て真緒ちゃんが
「夏葉さんってあんなにステキなお付き合いをしてる彼がいたんですね」とホッとしたような表情をした。

彼じゃなくて元彼だけどね。

真緒ちゃんのホッとしたような表情が気になったけど、今は尚也をどうやってやり過ごすかが問題。

「本当にありがとう。迷惑かけてしまってごめんなさい。厨房は忙しそうだから挨拶してないけど、大貴さんにもよろしく伝えてね」
私は真緒ちゃんに見送られて店を出た。


「持つよ」
サッと私の手荷物に手を出した。

「いい。重くないし」
私は手を引いた。

「夏葉が逃げないようにケーキを預かる作戦は失敗だな」
尚也はハハッと笑った。

「何でこんな事するのよ」
「夏葉が返信してくれないからだろ。今日の事もメッセージで入れたよ。読んでない夏葉が悪い」
私はまたじろっと尚也を睨んだ。

「夏葉、今からどこに行くの?俺、車だから送ってく」

え?と顔を上げた。

「車買ったんだ。もう留学はしないし、給料もそれなりにもらってるし」

ああ、そうか。
もう29才の立派なドクターだったっけ。
私の知ってる研修医の尚也はどこにもいない。
家族もいるんだから、車があってもおかしくない。

「送ってくれなくていい」
尚也の奥さんが乗る車になんて乗りたくない。

「話なら外で聞く。その辺の公園とか」

「秋って言ってもまだ暑いから外にいたらせっかくのリーフのケーキが傷むよ」
尚也は笑った。

ムッとした。
「だったら早く済ませてちょうだい」

「あ、夏葉スキありっ!」
私の手にあったケーキの紙袋が尚也に奪われた。

「何するのよ」

「じゃ、俺の車に行こう」
スタスタと歩いて行ってしまう。
これも前回同様。
いつも尚也のペースだ。
仕方なく後ろをついて行った。

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