いつか、らせん階段で
尚也の車は近くのコインパーキングに停められていた。
素早くチャイルドシートが付いてないか見てしまった。どうやら付いていない。

「どうぞ、乗って」
尚也によって開かれた助手席のドアをよけて後部座席に乗り込んだ。

「何だよ、隣がいいのに」
尚也は口を尖らせた。
何でいつも奥さんが座る席に座らせようとするのよ。無神経極まりない尚也に腹がたつ。

「送ってくれるんでしょ。自由が丘の駅にお願いします」
前は見ないで横を向いた。

「待ち合わせなの?何時?」
「2時」
「まだ早いじゃん」
「でも、その前にお昼ごはん食べたいから。早く行ってよ」
「はい、はい」

私は無言でスマホをいじっていた。
尚也もなぜか話しかけてこない。

しばらく走ってから
「ねえ、私に話があったんじゃないの?わざわざリーフの店員さんに声かけるくらいなんだから」
と顔を上げて話しかけた。

「話があったよ。だから・・・じゃん」

何言ってんのと言おうとして気が付いた。
あれ?ここどこ。

尚也がウインカーを出して曲がったその先にあったのは地下駐車場?

「ちょ、ちょっと待って。ここどこ!」
私はあたりを見回した。

「俺んち」

「俺んちって何!」

「先月買った新しいマンション」

は?

「何でそんなとこに連れてくるのよ!」

「だって、夏葉とゆっくり話ができる場所が良かったから」

はああああああ?

「ご家族がいるのにいったい私と何の話がしたいの!」

「ここに家族はいないよ」
ケロッとした顔でそんなこと言う尚也が信じられない。
ここにはいないって、じゃあここは何?ここは引っ越し前なのか新しく買った浮気専用マンションかなんか?

「私は車を降りないわ。話があるならここで聞く」
私は腕組みをした。

「夏葉は大人になって強くなったんだね。いや強情っ張りになったのか」
くすくすと笑った。

「とにかく、夏葉の大事なリーフのガトーショコラを返してほしかったら一緒に来て」
先に車を降りた尚也が後部座席のドアを開けた。


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