いつか、らせん階段で
「そうか、あの時の見合い話のせいで俺の夏葉がいなくなったのか。こんなことなら見合いの事を夏葉に黙ってるんじゃなかったな」

ん？違うけど？
いやいや、もともとそうじゃないよね。
私は冷めた視線を尚也に向けた。

「え、何、その怖い顔。美人の怒った顔は迫力ある・・・」

「私は手紙に書いたけど。尚也がアメリカに行ってしまうのがさみしかったって。付き合ってる間ずっとさみしかったよ。いつもカウントダウンしてて。ああ、後何か月だ、後何日だって思って。未来がない付き合いに疲れたのよ。好きだったんだから笑って別れられるはずない。笑って見送りなんてできるはずないでしょ！」
あの時に言えなかった思いをぶつけた。

尚也は一瞬、目を見開いて固まった。
そして、大きくため息をついた。

「ごめん、夏菜。さっきも言ったけど、あの頃の俺さ、夏菜に捨てられるのが怖かったんだ。本当は『アメリカから戻るまで待ってて』って言いたかったんだ。でも、夏菜は俺の留学の話には触れないし、いつもにこやかでさみしそうに見えなかったし。でも、このまま別れたら夏菜を誰かに取られるって思って、発つ前に言おうと決心したら夏菜がいなくなってた」

話の展開が見えない。
『待ってて』って言いたかった？

「俺が夏菜の話をしたから、すぐに親父が夏菜を見に行ったりしてさ。すぐに親父は夏菜のファンになったらしくて誰かに取られる前に早く籍を入れてしまえって」

見に行ったりした？
早く籍を入れてしまえ？

「夏菜の気持ちを確認出来てないのに、プロポーズもできないし、幼なじみに頼んで一緒に作っていた指輪はなかなか出来上がらくて、焦るし。出来上がったときには夏菜がいなくなるし」

プロポーズ？
指輪？

私が考えた事がないような言葉がいくつも尚也のクチから飛び出してきて、混乱する。

「結局、どういう事？」

「ごめん、全て俺が悪かった。夏葉、俺はずっと夏葉のことだけを愛してる。俺からもう離れないで。ずっと一緒にいて」

私の手を取って手の甲にキスをした。
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