いつか、らせん階段で
視線が合っているのに、尚也は話し始めようとしない。
私は小さくため息をついて視線を外した。
そしてレモンティーをまたごくごくと飲んだ。

「夏葉、そんなに喉が渇いていたの?」

「いいえ、これを飲み終わったら帰ろうと思って」

またゴクリとひとくち飲んだ。

不意にペットボトルを持つ手を握られる。

「そんなに急ぐなよ。3年振りなんだから」

「初めから少しなら話を聞くって言ってあったじゃない」

今、ここで一緒に座っていることが最大の譲歩のつもり。
できれば、今すぐにでも帰りたい。

「夏葉はさ、きれいになったね」

「は?」

「3年前ももちろんきれいだった。でも、今は大人になって更にきれいになってる」

「何を言ってるの。くだらない」
捨てられた男から「きれいになった」って言われて私が喜ぶとでも思っているの?
呆れた男だ。

「いや、本当にそう思ったんだよ」

「そう。ありがとう。尚也も相変わらずすごく格好いいよ。あの頃より骨っぽくなってて、大人の男になったって感じ」
私は皮肉交じりに言い返した。

皮肉は込めたけれど、言っている内容は本心だ。
背が高くて、きりりとした眉毛なのに大きな二重の瞳が柔らかな印象を与えていて、いつも女性の視線を集めていた。
それが、今ではあご周りのラインが昔よりシャープになっていて男らしさが増した感じ。
より一層女性の視線を集めていることだろう。

「そうか、ありがとう。夏葉にそう言われると嬉しいな」
フッと笑った。

私の皮肉がわからない尚也じゃない。
なのに、どうして喜ぶの。

「尚也、もういい?私帰るわ」
私はイライラとしていた。

「なあ、待てったら。まだ聞きたい事があるんだよ」

「なら、早く言って」

「夏葉、何で俺があの店にいたと思う?」

尚也がジッと私の顔を見つめてきた。
何、その真剣な顔は。

「あなたの都合は私にはわからないわ。誰かにあげるプレゼントでも買っていたとか?」


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