いつか、らせん階段で
「来月結婚式をするよ」
尚也の言葉に耳を疑った。
それにしても、一緒に暮らすマンションだけでなく、まさか自分の結婚式の日がもう決まっているとは知らなかった。
「いつ、予約を取ったの?」
「え、ええっと」
私の視線をそらす尚也が怪しい。
私にプロポーズしてすぐか。まさか、もっと前とか?再会してすぐにマンションだって買ってたっていうし。
まあ、結果的には早めに式場が確保できていてよかったって事なんだけど。
しかし、このオトコのこの強引なところは何とかならないものか。
「え?ここなの?」
パンフレットを見て驚く。
尚也が押さえていたのはあの高原のオーベルジュだった。
教会も隣接しているらしいし、希望すれば庭園で挙式も可能だという。
「あの思い出のらせん階段でウェディングドレスを着た夏葉をエスコートしたいんだ」
ダイニングに向かうらせん階段。
思い出して私は両手で顔を覆った。
涙があふれてきて胸がいっぱいになる。
今までは別れたつらい思い出で思い出したくなかったあのオーベルジュ。
あそこにまた行ける。自分の結婚式で。
私ももう一度行きたかった場所。
私ももう一度エスコートして欲しいと思っていた場所。
尚也がいつものように私の肩を抱く。
「一番きれいな夏葉を見せて」
うん、うん、うん
私は何度も何度も頷いた。
あのオーベルジュで大好きな尚也と結婚式をする。
私はなんて幸せな花嫁なんだろう。
前に泊まった時は不安で心から楽しむことができなかった。
でも、今度は違う。今度は全て楽しもう。
「尚也。ありがとう。愛してるわ」
私の言葉に尚也は満足げに肯いて
憎らしい程自信たっぷりに
「知ってる」
と言って私を抱いた。
~Fin~