いつか、らせん階段で
「いや、夏葉に会いたくて。あの店に行けばいつか会えるんじゃないかってと思っていたんだ」

「何を言っているの」

「だから、夏葉に会いたかったからあの店に何度も顔を出していたんだよ」

私は一瞬で身体が固まった。

会いたかった?
何度もあのお店に行っていた?
尚也の考えていることがわからない。

別れて3年。自分が捨てた女がどうなったのか知りたくなったんだろうか。だとしたら。かなり悪趣味だ。
でも、それ以外に尚也が私に会う用事があるとは思えない。

「黙るなよ」

「私に何を言って欲しいのよ」

「うん?そうだな。『私も会いたかった』とか?」

「そんなわけない」

私が即答すると、尚也は「ひどいなぁ」と苦笑した。

「そんなくだらない事を言うために私を引き留めてるんならもう終わりにして」

「なぁ、夏葉、今どこに住んでるの?前のアパートにはいないよね」
尚也は私の言葉を無視した。

「尚也には関係ない」

「どこで働いてるの?やりたかった仕事はできているの?」

「それも尚也には関係ない」

私はイライラした声で返しているのに、尚也は少しもムッとする様子がなく私とは正反対にうっすら微笑みを浮かべている。
何なの、この態度。

自分は夢を叶えて充実した日々を過ごしていて、元カノの私ははまだ、結婚もせず流されるように淡々と働いている。
そんな状況を実際に見て確認したかった?
バカにしたかったの?
自分はさぞかし幸せな結婚生活を送っているのだろう。
そんな笑顔で私を見ないで。

 
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