いつか、らせん階段で
「尚也は今どこにいるの?」

「どこに住んでるかってこと?それとも職場がどこかってこと?」

「どちらも」

「アメリカから1年前に帰国して今は大学に戻ったよ。住んでいるのは世田谷」

「そう」

「そうって、夏葉から聞いてきたのに興味無さそうだね」

「あなたのテリトリーに近付かないようにしようと思っただけだから」

「ね、夏葉はどこにいるの?」

「言いたくない。どうしてそんな事を聞くの」

「また夏葉に会いたいから」

私はキッと尚也を睨んだ。「私は会いたくない」と言おうとしてバッグの中のスマホのバイブルに気が付いた。
たぶん、仕事。

「電話だわ、出させてもらうわね」
そう言って立ち上がり尚也から離れて人がいない庭園の隅に移動した。

「はい、お待たせしました。神尾です」

手早く用件を済ませて電話を切った途端にスマホを尚也に奪われた。
いつの間に後ろに来ていたんだろう。
「返して」

「いやだ。夏葉の連絡先を俺のに登録したら返すよ」
「何言ってるのよ、返して」
「いやだ」

背の高い尚也は私が届かないように手を高く上げて私のスマホを操作している。

「あ、着信拒否はするなよ」

「するに決まってる」

「このまま夏葉を送って自宅を突き止めてもいいんだぞ」
尚也はニヤッとした。

「何言ってるのよ」

「そんな事しないから。だから、連絡先くらいいいだろ」

「いいわけない」

「じゃあ、スマホは返せない」

「返して」

「だめ」

こんなやり取りが続いて次第にこんな不毛な会話に疲れてしまう。
「もういいわ。着信拒否はしないけど、連絡はしてこないでね」
右手を出してスマホを返すように要求した。

「はい、了解」
笑いながら何か操作してから私の手にスマホを乗せた。
その笑顔は3年前とあまり変わらない。私が切なくなる程好きだったあの表情だ。
やっと忘れかけていたのに。

胸が痛い。ズキズキとする。
この顔を見ているのが辛い。

「じゃあ帰るわね。サヨナラ」
スマホを取り戻した私は尚也に背中を向けて歩き出した。

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