いつか、らせん階段で
「夏葉」
それはいきなりだった。

私は尚也に背中から優しく抱きしめられていた。
驚きすぎて硬直する。
何これ、何なの?
身体中の血液が逆流しているかのようにドクンドクンと心臓が跳ね上がる。
耳に首すじに背中に尚也の体温を感じる。

「なつは」
尚也の声が耳元から聞こえて我に返った。
必死にもがいて尚也から離れる。

「やめて!」
思い切り突き飛ばすと尚也は後ろに一歩だけ下がった。

「ひどいわ」
言い捨ててエレベーターに向かって走った。
涙がじわりとこみ上げる。
ちょうど来ていたエレベーターに乗り込んで閉ボタンを連打した。

下降するエレベーターの中で息を整えて、1階でエレベーターのドアが開いた途端に全力で駆け出した。
尚也が追ってくると思ったわけじゃない。

私に中の尚也への切ない想いを思い出してしまったから。
3年前の悲しすぎる想いに。




アパートに戻るといつもより長くシャワーを浴びた。
まるで何かを洗い流してしまうように。

何かじゃない。
3年振りに会った尚也と尚也を忘れられない私の恋心を。

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