夢現物語
暫くし、文は梨の礫ではいけないことを思い出されたのか、起き上がられ、御文を御覧になった。

『明けぬれば くるるものとは 知りながら なほ恨めしき 朝ぼらけかな』

御文には、ただ、その歌が書かれていただけで、その他には、何も書かれていなかった。

(何を、考えているの。私は、これ程にも傷ついて、涙を流しているというのに。)

身勝手な、所詮、人間というものは、その様な者か、と絶望なさった。

(和泉も、逢鈴も、何故、私が詣でないことを教えてしまったの。こうなるだなんて、一切考えていなかった?だけれど、逢鈴ならともかく、和泉がこんなこと、する訳がなかろうよ。)
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