夢現物語
(朝、文をお渡ししたのに、まだ、御返事が来ない。)

文机に頬杖をついていらっしゃる。すると、「若君」と、こっそり残らせた女童が声をかけた。

「御文が、届きましたよ。御覧になって下さいまし。」

うん、と頷いてそれを受け取ると、すぐさま御覧になった。

『御文を頂きましたが、私は、それに似合う歌を詠めません。』

それがお目についたとき、貴久はとてもがっかりなさった。ただ、

「日に添えて うさのみまさる 世の中に 心づくしの 身をいかにせむ」

と、詠まれていた。
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