夢現物語
あまり彼女が恋しくて恋しくて、遂に私は彼女の名を口にしてしまった。
忌むべき(いけない)ことだったのに。

つまり、諱、本当の名は、口にしてはいけなかった。
言霊を信じていたからである。
だから、特に女は、諱は知られていなかった。せいぜい、親が知っているくらいであった様だ。

ちなみに、桜、若草にも諱がある。
桜は聖子、若君は景子、である。

貴久の諱はそのまま貴久であるが、邸では決して誰もそうは呼ばない。

藤一条の姫君も、諱はおありだ。
だが、女房は皆、縁の名を使っているのである。

「如何しましたの、若君。」
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