夢現物語
(嫌味な顔。物思い。まさか、僕が逢鈴を好みだと思ったのか?)

逢鈴は他の女房に比べると若く美しいのだが、藤一条の姫君をも御覧になると、やはり、その美貌も霞んでしまう。
元々、恋愛対象では無いらしいが。

「わ、若君。逢鈴で御座います。参りました。」

「ああ、よく来てくれたよ………人払いはしてくれたな。」

「はい………えと、御要件は、如何しましたの?」

逢鈴は、いつもよりも暗い顔をしていて、オドオドしていた。

「藤の名と橘の名を持つ葵の花を知っているか。」

正に、藤一条(葵)の姫君のことであるが、それを問うた途端、わっと逢鈴は泣き始めてしまった。
< 116 / 302 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop