夢現物語
貴久がそう仰ると、姫君は袖でお顔を隠され、「そんなことは御座いません」と応えられた。

「何故、お顔を隠されるのですか………葵様。」

-葵様。
そう呼ばれ、ハッとなさった姫君はたいそう驚かれ、お顔を隠すも忘れ、暫し気を抜かれて様に、貴久を御覧になっていた。

「葵様。」

もう一度御名を呼ばれた時には、泣き崩れて、貴久に寄りかかるように倒れてしまわれた。

貴久はそんな姫君を寝かせ、一枚の衣をかけておやりになる。

「何故………何故………如何して……」
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