夢現物語
「して、その女房とは、誰のことなのだ。あの子の評判が落ちるではないか。」

声を少し荒らげて、北の方は若女房を急かした。

「それが、藤一条の君でした。若君は、たいそう嬉しそうなお顔をなさって出ていかれましたわ、北の方様。」

藤一条の君。
その御名が、北の方の顔を曇らせた。

「このことは、邸の外に漏らしてはいけないよ、良い事?」

「はい。」

若女房は、失礼致しました、と下がって行った。

(なんてこと。藤一条と言えば、私が嘗て、殿の娘ではないか、と疑った女房ではないか。それがもし本当ならば、貴久は、実の姉に恋い焦がれたのか。)
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