夢現物語
流石の姫君も、気が動転なさって、ふと、隣を御覧になった。
「いっ!…………たか………」
ちゃんとした声を発されるのに、とても時間がかかった。
(嫌、なんて事。貴久、貴久。)
既に貴久はお隠れになっていた。
やっと、姫君にも誠意が伝わった、その頃なのに。
(待っていなさい、貴久。)
血に塗れた短刀を、姫君は拾われた。
(世の中は、哀しいことばかり。だから、憂世と申すのは、知れたこと。悲しみを持て余して生きてゆくのも、辛きこと。)
姫君の頬に、ひとすじの涙が流れられた。
「いっ!…………たか………」
ちゃんとした声を発されるのに、とても時間がかかった。
(嫌、なんて事。貴久、貴久。)
既に貴久はお隠れになっていた。
やっと、姫君にも誠意が伝わった、その頃なのに。
(待っていなさい、貴久。)
血に塗れた短刀を、姫君は拾われた。
(世の中は、哀しいことばかり。だから、憂世と申すのは、知れたこと。悲しみを持て余して生きてゆくのも、辛きこと。)
姫君の頬に、ひとすじの涙が流れられた。