夢現物語
「そう、三条、もう、此処には来てくれないのね。」

姫君も、また、これが最後と思われて、御落涙遊ばした。

「あ、あのね、一条。」

これを、と貴久は姫君に、葵の花を添えた御文を渡された。

「きっと、いつか、僕とまた会おうね。」

そう言い残されて、貴久は、姫君の対の屋を出られた。

「待ってよ、三条!」

振り向かれなかった。
聞こえたけれど、見てしまえば、戻ってしまいそうであったから。

互いに、姉弟とは御存知でなかった。
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