夢現物語
貴久の母君は既に亡くなられ、邸もあれ、女房も皆辞めていった。
これ以上、三条邸に居させられまい、と思った父君の決められたことであった。

『我が形見 見つつ偲はせ あらたまの 年の緒長く 我れも思はむ』

-私の思い出の品を見ながら、私を思ってくださいな。私も、ずっと貴女を思いつづけますから-

文に添えられた葵は、『あふひ』で、そのまま『逢う日』を示す。

「三条、貴方は、行ってしまったのね………もう、会えないかもしれないわ。名前も、知らないのに。」


尼君(嘗ての藤一条葵の姫君)は、それを思い出されて、戦かれた。
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