夢現物語
貴久は、そう呟かれた。
お声もお姿も、生前のままでらっしゃった。

尼君はふと、何かを小さな紙にお書きになって、それを結んで貴久にお渡しになった。

(これは?)

貴久は亡霊であるがため、それを触られないので、尼君が代わりに開いてお見せした。

『恋ひ恋ひて 逢える時だに うるはしき 言尽くしてよ 長くと思はば』

-恋い焦がれ続けて、やっと逢えた時くらい、優しい言葉をかけて下さいよ、私を末永く想って下さるならば-

「一条!」

貴久は驚嘆なさったが、その歌を、嬉しく思った。
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