夢現物語
(私が世を捨てたら、北の方様、どうお思いになるかしら。この邸から出たら天涯孤独で、寄る辺もない私を。きっと、姫様にお目にかかる前に、野垂れ死んでしまうわ。)

そう思いとどまった。

それに、まだ、色鮮やかな装束を着ていたい、愛されていたい、と思った。
墨染では、それはままならないし、叶わない。

(姫様、裏切り者の私を、許して下さいませ。やっぱり、この逢鈴、世を捨てるのは勿体ないと思われてしまって。)

逢鈴は、貴久と尼君が嘗てからのお知りあいだったのを、未だ知らない。

責任を取りたい、と逢鈴は思っていた。
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