夢現物語
「ただ………私をまだ心配してくれる人もいるのね………そう、思って。この荒れ果てた邸には近寄る者さえいない、一条という立地の良いお邸なのに。」

「そうですわね。この邸で過ごしたのは、そう、昔の話では御座いませんのに。はて、如何してでしょう。」

「あぁ、こんな憂世に身をとどめていたく無いわ………はやく、母様のいらっしゃる場所に昇天したくて。それに、三条………貴久にも逢いたくて。」

逢鈴は、切られた尼君の御髪を拝見した。
とても、痛々しく思えた。

「尼君様、貴女様の第一の女房、和泉から、どうか姫様へと。」

逢鈴は尼君に漆塗りの箱を手渡した。
そして、御覧になっているのを確認してから、それを、開けた。
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