夢現物語
「和泉はその為、通っていた者に打ち捨てられてしまいましたわ。尼削の女など、興味が無い、と。でも、それ程に尼君様に忠誠を誓っていたのです、和泉は。」

己の身を、幸せを犠牲にしてまで忠誠を誓う和泉を、尼君は、何と言えばよろしいか、考えられなかった。

「私には、必要ないわ………………まだ、将来のある、和泉に返してやりなさい。どうせ、私は世を捨てたのよ。北の方が仕出かしたことではあるけれど、やはり、私は世捨て人、似つかわしくないわ。美しくもない、私に、今更髪を、髢を手渡されても、役には立たないもの。」

そう仰せられて、尼君は、箱に髢を入れ、そのまま逢鈴に返された。

「和泉は、元気かしら?心配で、たまらないの。私のせいで、髪を切り落として、さぞかし辛いでしょう。」
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