夢現物語
尼君は更に、御落涙され、「哀れな」と零された。


逢鈴は帰り、邸には尼君だけになられた。

(こうしていると、生きているわけが分からなくなってくるわ。本当に、嫌になって来る世ね。)

ふと溜め息をついてから庭を御覧になっていた。

「我に露 あはれをかけば たちかへり 共にを消えよ 憂き離れなむ」

そっと、そう呟かれた。

そうすると、何かある訳でもないのに、涙が流れて、やはりまた、尼君は泣かれた。
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