夢現物語
手脚が長く、大柄ではあるものの、それだけでは無い、と感じさせる、完璧なお姿の尼君は、若い女房から羨ましがられていたのを、本人は御存知ない。

(もう、嫌だわ。ええぃ、女房のフリをして、御簾の外に行ってしまおうかしら!この御簾、相手の顔さえ見えないんだ、憎たらしいったら、ありゃしないんだわ!)

年頃の姫君は、そんなことはしない。
だが、桜は、それ程に退屈だった。

(見つかったら、月を見ていた、とでも言えば良い。なんせ、今日は、満月ですもの。)

桜が裳の裾を持ち上げて、御簾を潜ろうとすると、誰かの足音がして、それを辞めた。

(誰?)
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