夢現物語
そっと、帰ることを促した。

「そうですね…………いやはや、別れは惜しい物ですね、これを、記念に。お嫌でなければ。」

少年は自分の持っていた扇を御簾の下から差し出した。慌てて、それに倣って桜もそうした。

「またいつか…………」

ボソリと桜が言っていたのは、相手に聞こえたのか、聞こえなかったのかは、分からない。


「若君様、如何なさいましたか。」

邸に帰ると、邸でも古参の女房が問うてきたので、「大丈夫」と答えた。

(バレたら、不味いだろうな。なんせ、忍び込んで、垣間見した訳だ。)
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