夢現物語
尼君は悲しいことを思い出され、辛く思われて、早めにお休みになった。

『葵。』

懐かしい声であった。
誰ぞ、誰何なさりたかった。

『私よ。貴女の、母。』

それで、尼君に、そのお声が、何処かへ行かれて仕舞われた母君藤の天女であられるとお分かりになった。

(母様………まぁ、懐かしいわ。母様を思いますだなんて、如何してかしら………いや、私は………独りで、寂しいのだ。こんな荒家に戻されて。すっかり荒れ果てたこの邸に、閉じ込められて。)

『女房にまで落ちぶれてしまっていたのね………哀れと思うぞ、葵。全て、私のせいだわね。』
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