夢現物語
貴久が隠れられた際、邸内では、皆が悲しんだと噂された。尼君が去られた時には、和泉と逢鈴だけであられたのに対し。

(母様、お願いで御座います。貴久を、戻らせて下さいませ。その方が、私のことを忘れる、それは悲しいことですが、その記憶と引き換えに………私なんて、どうでも良いのです。)

-願いを叶えるには、ひとつ、その分の代償が必要-

目を覚まされた頃、尼君は姫君であられた頃の格好をなさって、御自分の曹司にいらした。

(あぁ、そうね。)

バッサリと北の方に切られた筈の御髪も今は元通り、奪われた筈の調度品はその場に置いてあった。

(貴久は………?)
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