夢現物語
逢鈴は、話を振られたとはいえ、嘗ての貴久の想い人、姫君を話題にした。

「藤一条?誰だい、その方は。女房かな?それとも、お前が昔仕えていた姫君?」

(え?)

逢鈴は、人生で一番驚いた気がした。
想い人を忘れるなど、おかしいと思ったからだ。

「つかぬことをお聞き申し上げます。藤一条様を、若君は御存知ありませんの?」

貴久は肩に掛けていた袿を直して、くすくすと笑っていらして。

「知らないなぁ、美しい名前だとは思ったけれど。」

と仰った。
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