夢現物語
(やはり………お忘れになったのだわ、姫様の御事。)

そう、泣きたい様な気がして、曹司に帰ってからは、閉じこもっていた。


貴久は月夜、女房に美しいと言われた月を是非とも見たい、と庭に降りておられた。

(美しい、月だな。でも、少し哀しい気がする。いや、愛しいのかな。何故だろうか、そう感じてしまうのは。)

そう思われて、只、歩いていらっしゃった。

(おや。)

ある対の屋の辺りに来られた時に、ふと、微かにだが、琵琶の音がしていたのを、貴久は見逃されなかった。
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