夢現物語
「女房どの?」

姫君は、その貴久のお声を、懐かしく思えど、彼は己を覚えてはいないのだと思われ、悲しくもあり、愛しくもあった御様子でいられた。

姫君は何を思われたのか、琵琶の弦を撥で掻き鳴らされた。

「忘らるる 身をば思はず 誓ひてし………」

姫君はお辛い様でいらっしゃる。実際、お袖は濡れて、美しいお顔にも、涙の跡が残っている。

「人の命も 惜しくもあるかな………」

-忘れられてしまった私は良いの。只、ずっと一緒に、と仰った貴女は、どうなるでしょう。天に誓っておきながら、破り、それにより罰が与えられるであろう貴方の命が、惜しいことよ。
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