夢現物語
姫君が、昔、そう言ってしまわれて、他の女房に引かれてしまったのを、桜は覚えている。

(藤一条は、確か、貴久が通っていたわよね、昔。今はそんな話を聞かないから、もう、終わってしまったのけしら。まぁ、主従関係を考えれば、滑稽だわね、あの藤一条に限って。)

くすくすと、桜は笑っている。
姫君の恋は、知る人ぞ知る、となっているが、その知っている者からすると、主従関係を超えたために不幸になっている女房という肩書きで、とても滑稽に聞こえるらしい。


「ふぅ。」

「お帰りなさいませ、若君。」

忍は悩んでいた。尤も、その原因は桜である。
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