夢現物語
「何故?」

二人は道を歩いていた。
常磐は壺装束と呼ばれる、外出の為の軽装をし、笠をかぶっている。いつもなら車で移動するので、深窓の姫君にはキツかった。

「姫様………お忍びならば、こざっぱりとした網代車をお使いになれば良かったのでは?」

肩でぜえぜえと息をしている常磐に、何ら変化もない瑠莉が問うた。
瑠莉は使い走りもするので、これくらいは何てことない。

「いいのよ………それに、私は外を見てみたかったのよ。車には確かに窓はあるけれど、人の行き交う、この景色は見えなくてよ?」

常磐は笠に顔が見られないようにと付けてある、垂れ絹の奥で、にこりと微笑んだ。
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