夢現物語
姫君はこっそりと、父君のいらっしゃる寝殿に向かわれた。

藤一条の名を捨てることを知られておられた父君は、姫君にとって、初めて知られることを仰られた。

「葵と名乗っては如何かな。」

「しかし、私の名は………諱は………」

姫君は実は、御自分の諱をご存知ないのだ。そして、歳も同様である。

その為、姫君の諱を知る者は、今や父君のみとなった。
姫君は諱を葵だと思っておられるのだ。

「崇子。お前の名前だよ。」

因みに、年は今年で十六になると言われた。
御自分のことなのに、何も知られていなかったのだ。
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