夢現物語
貴久をよく知る女房達は、こう申された。

「若君は少し、人間離れなさった。御目も、昔は黒くていらっしゃったのに、今では少し赤みを帯びていらっしゃって。」

つまり、人間ではなくなられた、と申したのだ。

(まただわ。)

貴久付きの女房、逢鈴は月を御覧になる貴久を見るたびに、毎夜思う。

(月を見ていらっしゃる。また御目が赤くなって。心做しか、姫様に似てきておられるのではないのかしら。姫様を若君がお忘れになってから。)

少し、悲しくなってしまい、逢鈴は涙を流した。
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